1976年3月4日、NHKテレビの報道を忘れることは出来ない。J・チェーン本部が加盟店から訴訟を起こされたというニュースである。このニュースはすぐに新聞各紙にも載った。訴訟をおこされたことよりも、J・チェーンが「マルチ商法」という部分が強調されていたのにはこたえた。すでに「ポケット絵本シリーズ」全10集のうち、第9集までは納品済み、最終の10集目を残すのみだった。
報道があった翌日、B印刷の社長が血相を変えて飛んできて、製紙会社や製本業者らから、J・チェーンは大丈夫か、今後の支払いは手形から現金にするといわれたので、当社との取引も現金にしてくれという。なんとかなだめて当方の支払いは従来通り手形としてもらったが、こちらも内心は冷や汗もので、以来、毎月20日の決済日は祈るような気持ですごしたものだった。
5月のはじめに、念願の「童話シリーズ」全10集・40巻を完成させることができたが、お祝いをする気持ちにもなれなかった。不安いっぱいのうちに、6月20日、7月20日と、なんとか無事に手形は決済されたが、その後、J・チェーン他「マルチ商法」と名指しされた何社かの社長が、国会に呼び出され、事情聴取された。この頃になると報道も加熱気味、加盟店もJ・チェーンを名乗るだけで顧客からなじられたり無視されたり、営業どころではないという状況になって、磐石にみえた組織も急速にほころびを見せはじめたのだ。このときまでの売掛残は、8月20日決済分1700万円、9月20日決済分1000万円、計2700万円にものぼっていた。9月分はともかく、当面の8月20日を乗り切れなくては前途に望みはない。