先週につづき、今週印象に残った事柄をつづってみます。
● 花さか爺さん
作家五木寛之氏のロングセラーに「生きるヒント」という全5巻のシリーズがあります。氏は、私よりちょうど10歳年上で誕生月も同じ、このシリーズを執筆したのが現在の私の年齢に近いこと、1巻に12章、全60章からなっていて1章は400字詰原稿用紙20枚程度、10分ほどで読める分量もほどよい感じがして、この2、3週間、興味深く愛読しています。このシリーズの3巻目の第1章「楽しむ」に、マンガ「フクちゃん」の作者として有名な横山隆一氏(1909-2001)のことが出てきます。横山氏が当時85歳だったにもかかわらず、好奇心といたずら心にあふれているところにとても共鳴するものがあります。五木氏もそういう生き方にあこがれをもっていたそうで、「日々を楽しく生きる天才」と表現し、横山氏から直接聞いたという次の話が紹介されています。
[以前、鎌倉にある自宅から駅まで歩くあいだが退屈なので、何か面白いものがないかと思っていたとき、いいアイディアが浮かんだ。花の種をいろいろ買ってきてポケットに入れる。駅への行きかえり、道の脇の立派なお屋敷の庭に、ポケットの種をまく。すると、りっぱな庭から、マツバボタンやヒマワリなどいろいろな草がニョキニョキはえて、やがてとてもきれいな花を咲かせた。まるで花咲か爺さんになったような気分だった……]と。
「花盗人は罪を問われない、などと平気で他人の庭の枝を折る人がいます。しかし、おなじことなら、勝手に花を咲かせるほうが風流なんじゃないでしょうか。どんな場面にも楽しみを自分でみつけだそうという横山さんの姿勢に、思わず笑いながらも感じ入ってしまうのです。」
私も、この章を読んでしばらく、楽しい気分になったものでした。「はなさかじじい」は日本の代表的な昔話のひとつですが、おそらく、昔にもこんな風流で愉快な爺さんがいたのでしょう。その行為を少し誇張して伝える人がいて「はなさかじじい」の原話が作られ、それが長い時代を生きぬいて日本を代表する民話として生き残ったに違いありません。
● 「1円の中古本」が出品される理由
ネットで本を購入することが多くなりました。特に愛用しているのが「アマゾン」ですが、1年ほど前から「マーケットプレイス」という中古品も扱うようになって、最近、お得意さんになりつつあります。何といっても、ほしい本を検索して、購入ボタンをクリックするだけで届けてくれるのですから便利なものです。上に記した五木寛之氏の「生きるヒント」の1巻目は書店で購入(角川文庫・定価420円)。2巻目は書店になかったため、近くのブックオフで購入(105円)。3巻目は、ネットのアマゾンで検索したら、「マーケットプレイス」で1円と表示されているではありませんか。しかも、最安値1円の出品者が10人以上もいます。なぜこんなことが可能なのでしょうか。購入者は送料340円を負担するので、341円をカード会社から引き落とされます。出品者はアマゾンから送料340円がもらえますが、手数料として100円プラス売価の15パーセントを差し引かれます。からくりは送料にあるようです。340円は郵便で出した場合ですが、今や宅配によるメール便の時代であるため、100円前後で届けてくれるからなのでしょう。それにしても、封筒、納品書、梱包その他雑費がかかることを考えれば、ビジネスとして成り立つものなのだろうかとの疑問は消えません。