10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第38回目。
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● お話の中でいっしょうけんめい遊ぶ
おじいさんがかぶを植えました。そして 「あまい あまいかぶになれ、おおきな おおきなかぶになれ」 と、たいせつに育てました。すると、とてつもなく大きなかぶになりました。さて、おじいさんはかぶを引き抜こうとしたのですが、とても抜けそうにありません。そこで、おばあさんを呼び、孫を呼び、犬を呼び、ねこを呼び、ねずみを呼び、「ねずみがねこをひっぱって、ねこがいぬをひっぱって、いぬがまごをひっぱって、まごがおばあさんをひっぱって、おばあさんがおじいさんをひっぱって、うんとこどっこいしょ」 かぶは、やっと抜けました……。
ロシア民話の『おおきなかぶ』(福音館書店刊ほか)を読み聞かせると、子どもたちは遊びの世界に入って耳をかたむけます。
くり返しの言葉がリズミカルで耳ざわりがよく、そのリズムが、子どもたちを自然に物語の中にひきこんでしまうのでしょう。
また、ねずみ、ねこ、犬といっしょに、自分もいっしょうけんめいにかぶをひっぱっているような満足感にひたることができるのかもしれません。
このお話に初めて耳をかたむける子どもは 「大きなかぶは、おばあさんがやってきても、孫がやってきても抜けない。つぎはどうなるだろう」 「犬がやってきても抜けない。つぎはどうなるだろう」と、次のページ、その次のページがめくられるのを、胸をどきどきさせながら待ちます。
この本を初めて読み聞かせるときは、抜けた大きなかぶをみんなでかついでいる絵が表紙にあるときには、最初は表紙を見せずに話に入って、最後のページをめくり終えてから見せるようにした方が、効果的だと言われています。それは、初めから結論を伝えてしまっては、せっかくのスリルを半減させてしまうからです。子どもたちにとって、この物語は、おとなが想像する以上にスリル十分なお話なのです。
子どもたちは、楽しかった本は何度でも読み聞かせをねだります。それは、楽しい遊びは何度でもくり返すのと同じです。そして、読み聞かせが3度め4度めになると 「うんとこしょ、どっこいしょ」 のくだりでは、いっしょに掛け声をかけます。孫、犬、ねこ、ねずみがやってくるたびに、話が 「……をひっぱって」 のところにくるのを今か今かと待ちます。
このとき、子どもが大勢いれば、子どもたちに、おじいさんでも、おばあさんでも、犬でも、ねこでも、自分の好きな声で 「どっこいしょ」 と言わせてみるのも、おもしろいことです。子どもたちは、とにかく絵本の中で夢中になって遊ぶのですから……。
読み聞かせの後、子どもたちに 「どう、おもしろかった?」 「どんなところがよかった?」 などと問う必要はありません。子どもたちが楽しんだことで十分です。ふだんは仲が悪いはずの犬、ねこ、ねずみが力を合せるのも不思議に思わず 「うんとこしょ、どっこいしょ」 と楽しんだことで十分です。子どもたちは、ごく自然に、みんなが助け合うことのやさしさ、あたたかさをちゃんと感じとっていることでしょう。
読み聞かせを続けてもらっているうちに、子どもの心に忘れられない本が1冊1冊たまっていきます。それは忘れられない思い出がたまっていくのと同じです。いつまでも心に残る、お母さんの子守歌と同じなのかもしれません。
なお、「おおきなかぶ」は、「えほんナビ」のホームページでも紹介されています。
福音館書店版 http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=240