10年以上にわたり刊行をし続けた「月刊 日本読書クラブ」の人気コーナー「本を読むことは、なぜ素晴しいのでしょうか」からの採録、第39回目。
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● これまで知らなかったことを知る喜び
『ちのはなし』(堀内誠一文・絵 福音館書店刊)という本があります。人間の血のはたらきを、幼児向けに絵と文で楽しく解説した絵本です。
この本を読んだ子どもたちは、こんなふうに言っています。
「ぼく、おはなしの本より、もっとおもしろい本をみたよ」 「人間のからだの、ひみつの本を読んでもらったよ、とっても、おもしろかったよ」 「ちのふしぎな力にびっくりして、みているうちに、ぼくの心ぞうがドキドキしてきたよ」
子どもたちは、心臓、白血球と赤血球、血管などのしくみのふしぎに目を見はっています。しかし、この本を 「おもしろい」 と感じさせたのは、体のしくみについて新しい知識を得たことと共に、それまでなんとも思わなかったことを 「ああ、こういうことだったのか」と“発見”させたことにあります。
「走ったりしたあとに心ぞうがドッキンドッキンなるのは、体じゅうにあたらしいちをどんどんおくっているからだということが、はじめてわかった」
「けがをしても、しぜんにちがとまるのは、けっしょうばんが、ちをかたまらせていたのだ」
「足がしびれるのは、からだのおもみでけっかんがおされて、ちがながれないからだって……」
「ちがあかく見えるのは、ちのなかにせっけいきゅうがあるからなんだね」
こどもたちは、こんなことを知ると 「やったぁ」 と叫び、「よし、あした、みんなに話してびっくりさせてやろう」 と考えただけで、うれしくなるものです。
この本を読んだ子どもたちの多くは、いろいろなことを実験してみたくなり、そのよろこびも語っています。
「ぼくね、この本よんでじっけんしてみたよ。まっくらなところで手をかいちゅうでんとうにかざしてみたよ。口の中もてらしてみたよ。手もほっぺたもすごくきれいなあかになったよ。だいはっけんだったよ」
「まきがみのしんをつかって、おかあさんの心ぞうにあててみました。ドッキン、ドッキン、なっていました。うちの犬にもあててみました。やっぱり、ドッキン、ドッキン、なっていました。なんでもないことだけど、なんだか、だいはっけんしたみたいな気もちでした」
今まで知らなかったことを知る。そうだったのかと納得する。知るよろこびを知る。まわりのことに疑問をもつ楽しさを知る。自分の科学する心や創造性をそだてていく。──すぐれた科学の本・知識の本は、子どもにすばらしいものをもたらします。
「今の子どもは、一般的に、ものごとを深く考える力が弱い、‘なぜだろう’と疑問をもつことも少なくなってきている」 などと言われがちです。しかし、それは 「知るにあたいするもの」 を与えられていないからではないでしょうか。
子どもたちに未知のことを知るよろこびを味わわせる本は、ほかにもたくさんあります。これらの本は、ふだん本を読まない子どもにも、興味をもってむかえられるはずです。
血のこと、ひとつにしても、子どもに語り聞かせることは、なかなかむずかしいものです。本が、その役割を十分にはたしてくれるなら、子どもに、1冊でも多くの適書に出会わせ、子どもたちの目と心を、少しでも広く開かせてやりたいものです。
なお、「ちのはなし」は、「えほんナビ」のホームページでも紹介されています。
http://www.ehonnavi.net/ehon00.asp?no=621