前回に続き、「レディバード図書館」シリーズのおもな絵本には、どのようなねらいがあり、どう利用してほしいか、監修者ウィングフィールド夫妻のコメントを紹介してみよう
(25) こびとと くつやさん
グリム童話にでてくるお話です。「グリム童話」と普通呼ばれている童話集は、正確にはグリム兄弟の創作集ではなく、兄弟がドイツのいろいろな地方に昔から伝わっている物語や伝説を集めて、独自の語り口で再構築したものです。ドイツ民族が先祖から受け継いできた魂を、やさしく親しみやすく紹介したので、世界じゅうの子どもたちの心をとらえてはなしません。この話は、そんなグリム兄弟の暖かい心が流れている作品です。人のいい靴屋の夫婦と、やさしい小人たちとの心暖まる交流は、幼児の胸にも素直に溶け込んでいくにちがいありません。
毎日、一所懸命はたらく靴屋の老夫婦でしたが、いつも貧しく、ある日、わずか1足分の皮革を残して廃業を決意します。しかし、翌朝起きてみると、皮は素晴らしい靴に仕立てあげられていました。そして、翌日もそのまた翌日も、目をさますと、毎朝素敵な靴が置いてありました。その靴が評判をよび、商売は大繁盛。幼児ならだれでも、夜中にだれかがこっそりやってきて、素敵なプレゼントを置いていってくれたら、どんなにすばらしいだろうと考えたことがあるはずです。このお話の導入は、まさに幼児の心理を巧みにとらえているといってよいでしょう。
そして、だれがそんなことをしてくれるのだろう、という謎ときの興味につながり、それが2人の小人とわかったとき、子どもたちの心は完全にファンタジーの世界にとけこんでいきます。やがて、老夫婦が、小人のために靴と服と帽子と靴下を作ってやることになりますが、これまでプレゼントされるおじいさんおばあさんをうらやましく思っていた子どもたちは、こんどはプレゼントする喜びを発見します。
寒々とした身なりをしていた2人の小人が、プレゼントされた服を身につけて大喜びするところは、心地よい暖かさとともに、いつまでも子どもの心に住みつづけることでしょう。そんな小人の存在をいつまでも信じられる、想像力豊かな子どもであってほしいものです。