F商事の事務所で、運命的出会いをしてから何日かたった頃、長野県を手がけたいといったY氏から電話がかかってきた。F商事の社長は、いずみ書房の「発売元」になったというようなことをいっているが、事実なのかという問い合わせである。私は、次のように回答した。
F商事には、みんなに会う機会をつくってくれたことで感謝しているが、当社は金銭的なバックアップは一切受けていない。組織はできる限り単純なものが良いと考えているので、本社と支社の間に余計なものは挟みたくない。F商事が茨城県やその他の地域をやりたいというなら、Y氏の長野県、K氏の栃木県と同列の「支社」という立場でお願いするつもりである……と。
Y氏は、「よくわかりました。F商事が発売元というのなら、今回の件は辞退しようかとまで悩みました。J・チェーンがおかしくなったのは、販売力がなくても組織の上位になった者が、その立場を利用して、下位者のうわまえをはねてしまう仕組みが原因だと私は分析しています。私は生来「ずるい」のが大嫌いでして、ビジネスの上でも公明正大、堂々と戦いたいので、いずみ書房さんの組織は、ぜひそれを貫いてもらいたい。J・チェーンの二の舞だけはしてほしくないですから。近いうちに保証金30万を持って、本社へ契約にうかがいます」と、快活に電話を切った。