W氏のセールス現場に立ち合わせてもらい、いかに一般家庭に「ポケット絵本」を売り込めばよいかのイメージをつかんで勇気を得た私は、J・チェーンのことを思い出していた。系列会社のJ総業が倒産した以上、どんなに頑張っても2、3ヶ月後にはJ・チェーンも破綻してしまうだろう。そうなると、多額の加盟料を支払って手にした加盟店の営業権の価値もなくなってしまう。全国に1000店を越える加盟店があるそうで、みんな路頭に迷うはずである。加盟店の中には、当社の「ポケット絵本」を中心に営業活動をしてくれた人がたくさんいると聞いている。散り散りになってしまう前に、なんとか同士として「ポケット絵本」の普及事業に共に歩んでもらえないものかと私は考えた。
そこで、J総業倒産の後、伊勢崎市のJ・チェーンの研修所付近で待機中にたまたま知り合ったF氏へ電話して、協力がもらえないか尋ねてみた。私の予測していた通り、J・チェーンは末期的症状を呈しているという。加盟店もそれを察知して浮き足立っており、営業どころではないらしい。F氏はJ・チェーンの加盟店の中でも、もっとも上位の「発売元」という権利を得ていて、加盟金だけでも1千万円以上もつぎ込んでいるため死活問題なのだともいう。
私は電話だけでは趣旨がうまく伝わらないと思い、1976年10月初旬、茨城県岩井市にあるF氏の自宅を訪ねた。「F商事」という会社組織になっているといっていたが、本業の農家の一室を事務所にしていた。F氏はF商事の専務、その兄さんという人が社長でオーナーだった。話のようすから、社長は地元の名士のようで顔が広く、政治的な力を大いに利用して、傘下の「地区センター」「特約店」という加盟店に売り上げをあげさせ、組織的な利益を得ているような印象だった。
「いずみ書房さんも、J総業の倒産でまいりましたな。今月末はJ・チェーンもいよいよ苦しい。先月末もギリギリ乗り越えたくらいだから、もう駄目だと思ったほうかいいですよ。どうです、ウチと組んで、フランチャイズ組織をやりませんか」と社長はいう。
詳しく聞いてみると、親しい知人にJ・チェーンの内部事情に通じている人がいて、全国1000加盟店のリストはもちろん、月間売り上げ、商品別の売り上げ情報もほぼ知り尽くしているから、当然、どの地区の誰が「ポケット絵本」をよく売り上げているかも知っている。F商事が販売元になって、いずみ書房の販売組織を作ってもよいという。私は、「ポケット絵本」を売っている加盟店を紹介してもらいたいというのが訪問の主旨ではあったが、F商事と組むことにより、一気に組織を拡大することができるかもしれないと感じた。ただ、共同でチェーン組織を作るということへの即答は避け、関東と周辺地区で、「ポケット絵本」を手がけている加盟店の方に声をかけてもらい、どこか適当な場所に集まってもらえないかと提案した。すると、F社長はここでやろうと即断し、後日連絡をくれることを約束してくれた。