文庫判上製のシリーズ「せかい童話図書館」を刊行することが、私のいずみ書房創業のキッカケだった。なぜ出版社を起こしてまで、童話のシリーズを刊行することになったのか、それにはいくつかの理由がある。そのひとつは、幼児・児童期の体験が原点としてあると思う。私は、7人兄弟の四男で下に3歳違いの妹がいる。私の父は、小学校の先生を長くやっていたせいか、幼児期の大切さがわかっていたのだろう。物心がついてから毎日のように寝る前に、「学習室文庫」という1冊40〜50ページほどの薄い本を読んでくれた。全部で180冊あり、1期分が1箱30冊組、第1期〜6期まで6箱に分かれていた。私と妹は一日おきに、1冊ずつお気に入りの本を父に手渡した。日本の昔話、グリムやアンデルセンの童話にはじまり、名作文学、伝記物語、世界の七不思議、科学読み物など、ジャンルは多岐にわたっていた。あまり感情導入をしない独特の抑揚は、50年以上経った今も、はっきりと思い出せる。これが幼児期から小学校3、4年生ころまで続いたように記憶している。兄や姉たちも同じように読んでもらっていたようで、この本を見るとなつかしさと共に何か甘酸っぱい思いがするようである。奥付を見ると、昭和2年、中文館書店という出版社から刊行されたシリーズで、1箱30冊の定価が2円と表示されている。今も、兄弟たちの思い出の証しとして、私が大事に保存している