前回に引き続き、「せかい伝記図書館」の執筆の中心となっていただいた有吉忠行氏の講演記録の第3回目を紹介する。
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日本のシートンとしてたたえられている動物文学の作家椋鳩十さんは、「せかい伝記図書館」 に対し、直筆で次のような賛辞を寄せてくれています。
椋鳩十さんの書かれた「片耳の大シカ」「大造じいさんとガン」「月の輪ぐま」など多くの作品は、小学校の国語教科書に採用されています。椋さんはかつて 「母と子の二十分間読書運動」 というものを提唱されたことでも有名です。この運動は、子どもがテレビばかりを見ていてはいけない、なんとかして本を読むようにしむけなければいけないと考えられたからです。また、テレビを見ることによって親と子の対話がなくなっていることもなげかれ、1日に20分でもよいから、本を仲立ちにして親子の心が通いあうことを願われたのです。
その後、この親子読書運動は全国に火がつき、いまも各地でつづいています。しかし、この親子読書は、一時期にくらべると、たいへん下火になっています。それは、読書運動というものが、たいへん根気を必要とするものだからです。
人間が生きていくうえには、食べなくてはいけません。衣類も身につけなければいけません。ところが、本はたとえ1冊も読まなくても、現実的には何も困りません。めしを食わなければ死にますが、本を読まなくても死にはしません。だから、とくにこのごろのように家計が苦しくなれば、いちばん先にけずられるのは本代です。ほんとうは、いくらおいしいものを食べても、いくらぜいたくな衣類を身につけていても、心の泉がかれてしまっては植物人間にも等しくなってしまうのですが、それが、なかなか理解してもらえません。だから、読書運動がつづかないのです。