前回に引き続き、「せかい伝記図書館」の執筆の中心となっていただいた有吉忠行氏の講演記録の第4回目を紹介する。
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子どもの出版界のことについて、すこし申しあげてみます。おそらく、いずみ書房の小型の本を持って各家庭をまわられると、多くのお母さんが、小さい本ですねという意味をふくめて 「かわいい本ね」 と、いわれると思います。そして、この 「かわいい本ね」 という言葉の裏側に、「小さいのに値段は高いわね」 という無言の言葉を感じとられるのではないかと思います。しかしこれは、お母さん方が子どもの小型の本になれていないし、本の定価の根拠もご存じないからです。
戦後、日本には「学校図書館法」という法律ができて、すべての小・中・高等学校には学校図書館を置かなければならないようになりました。現在、全国で3万校以上の小・中・高に学校図書館があります。子ども向きの本が大型化した理由の一つは、ここにあります。今でも多くがそうですが、学校図書館では、小型の本をそろえるのを好みません。図書館の本は「たいせつな資料だ」という考えがあるうえに、本が長もちすることや、書架に並べたときのことなどを考えるからです。小学校の図書館は、とくにそうです。だから子どもの本の出版社は、しだいに大型の本を作るようになったのです。大型にして定価を高くすれば、学校図書館の10〜20%が買ってくれるだけで採算はとれるという考えも、出版社にめばえたのではないでしょうか。
それからもうひとつ、本の大型化の理由には、書店販売上のこともからんでいます。出版社にすれば、大型の本でないと書店で並べられても目立たないし、書店にすれば、大型の定価の高い本でないと利益があがりません。つまり、子どもの本の大型化には、内容的によいものにしようという必然性よりも、売るための商魂が大きく介在してきたのです。逆説的にいえは、多くの出版社は、商売にならないから小型の本を作ろうとしなかった、と皮肉ってもよいのかもしれません。このような状況のなかで、いずみ書房があえて小型本の出版にとりくまれたのは、まさに英断ですし、それも、取次店や書店をとおさないで、また学校図書館などに頼らないで、直接、各家庭へ普及させていくという積極的な姿勢があったからこそ、実現したのだと思います。
次に定価は、本の大きさによってきまるのではありません。大型、小型によって製作費に差がでるのは、ほとんど紙代だけです。原稿料や、画料や印刷代や製本代などは、大型だろうと小型だろうとかわりません。文字だけの大型の本よりも、絵を入れた小型の本の方が、高くかかるのです。とくに、いずみ書房の各シリーズのように、シリーズごとに1000枚前後の絵を入れて、しかもカラー印刷すれば、おどろくほどの製作費がかかります。
要するに、本の値段が高いか安いかを決めるのは、形ではなく、その本を作るのに出版社がどれだけ真剣にとりくんだかという「質」なのです。
1981年に出版された子どもの本の平均定価は、百科事典などの高価なものをのぞいても850円です。ところが、いすみ書房の本は、どのシリーズをとっても、1冊600〜650円にしかなりません。しかも、「せかい伝記図書館」 などは、他社のどんな伝記全集とくらべても、比較にならないほど多くの絵を挿入して作られています。本の装丁もりっぱです。