「こども科学図書館」の基本方針を、具体例をあげて説明してみよう。
先にふれたように、子どもたちは自分の身近なものには何でも新鮮な関心をもち、わかろうとする知的好奇心を持っている。そして、未熟な体験ながらも、さまざまなイメージをつくりあげている。たとえば「いぬ」という言葉を聞いたとき、近所にいるよくほえる犬、公園でじゃれついてきた可愛い犬、テレビで見たかしこい犬というふうに、体験から知り得た情報をもとに、犬のイメージを頭にえがくことになる。ところが情報量が少ないと、それ以上犬に対するイメージは広がらないし、深まらない。好奇心はあっても、いっそうの進展が期待できないのだ。
「こども科学図書館」の13巻目「いぬ」を開いてみると、犬の赤ちゃんの誕生からはじまる。よちよち歩き、すぐにいたずらをはじめるようになり、一人前になっていく様子を段階的に描写する。人間と犬との歴史的なつながり、犬のさまざまな身体的特長、うれしい時やかなしい時の感情のあらわし方、飼う時の注意、目のみえない人を助けたり、どろぼうをつかまえたりする犬、羊などの動物の番をしたり、ソリをひいたりする犬など、人間生活との深いかかわりがあることを、相当なページをさいて解説している。
日本生れの犬、外国生れのいろいろな犬、さまざまな愛玩犬。さらに、きつねやたぬきやおおかみなどが犬の仲間だというように、実に多様な側面から犬に関する情報を提供して、子どもたちの感受性と知的好奇心を刺激して関心を深め、発展性をもたせる工夫をこらしているわけである。