昔から、ヨチヨチ歩きをはじめた子どもに危険なものを教える時、熱いアイロンやヤカンをさわらせてきた。そういう、アツイという体験が子どもにしっかり覚えこまれるため、アツイといえばストーブにも近づかなくなるし、アイロンをかけているじゃまもしなくなる。そして、おふろのお湯か熱い、ミソ汁が熱い、カゼをひいて熱が出た、日差しが暑いというように、日常的な体験をつみ重ねてアツイという言葉と、自分の感覚が結びついてアツイという概念を形成する。さらに大きくなると、物事に熱中するとか、勉強に熱が入らない、熱狂する人々、熱弁をふるう、というようなことへの理解へと発展させていくのである。こうして人は、どんな言葉でも、何年もかけてひとつのイメージから概念を形成し自分のものにしてきた。言葉の認識は、体験のつみ重ねが本質だといってよいだろう。
「こども科学図書館」 のどの本も、さまざまなイメージから一歩一歩つみあげて、概念を構築する作業の手助けをする対象にほかならない。そのためには、単に絵本を子どもに与えるだけでは不充分。絵本を読んであげたり、絵本を仲立ちに親子の対語を深めたり、たとえば子どもが「いぬ」に興味がおぼえたら、飼ってあげたり、それが無理なら飼っている人に頼んで深く接触する機会をつくってあげることが大切ではないだろうか。
こうした地道な積み重ねの体験の中で、新しい問題を解明していく能力が開発され、創造性のある視野の広い人間へと生長する礎となるのだと思う。