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歴史に学ぶもの

「日本読書クラブカタログ(本の価値と楽しみ)」の第3章「歴史」の項を紹介してみよう。

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● 過去がなければ今の自分はない
この地球上には、無数の生物がいます。そして、どの生物にも歴史があり、その歴史の長さは、人類よりも他の生物のほうがまさっています。ところが、もっとも短い歴史しかもたない人類が、もっとも進歩、発展しました。これは、なぜでしょうか。
このことを子どもたちに問うと、ほとんどの子どもが 「それは、人類がいちばん頭がよかったからだ」 と、単純に答えます。子どもだけではありません。おとなでさえ、そう思っている人が少なくありません。
しかし、この問いへの正解は、同じ歴史ではあっても、人類の歴史と、他の生物の歴史とが、根本的に異なることにあるのではないでしょうか。つまり、人類以外の生物は、時間の長さの歴史はもっていても、その歴史をふりかえったり、保存したり、未来に役だてたりはしませんでした。でも、これとは対照的に人類は、過去の歴史を忘れないように心がけながら、過去の歴史をつねに現代に役だてながら、そして現代を未来に結びつけながら、かさなりつながりあった歴史を形成してきました。地球上の生物のなかで人類のみが進歩、発達した最大の理由は、ここにこそあるのではないでしょうか。科学の発達だって、芸術の発達だって、経済の発達だって、文化の発達だって、すべて 「歴史のつみかさね」 の成果です。歴史のつみかさねがなければ、おそらく、なにひとつ発達していません。
ということは、人間は、歴史の流れのなかに身をおいて、いっぽうでは歴史の恩恵に浴しながら、いっぽうでは歴史をつくりながら生きているのであり、だからこそ、歴史と人間の生活をきりはなすことは、ぜったいにできないのです。このことは、10歳の子どもは自分の10年の歴史、30歳の人は自分の30年の歴史、50歳の人は自分の50年の歴史の上に今があるのだということを考えれば、もっともよく理解できるのではないでしょうか。過去がなければ今の自分は存在し得ないのですから。

● 知識として覚えてもダメ
ところが、小学校高学年から中学、高校と6年も8年も歴史を学んできたにもかかわらず、社会にでた人、家庭に入った人の多くが、日本の歴史からも世界の歴史からも、遠ざかってしまいます。
これは、ひとつには、学校の歴史の試験といえば年号や事件を棒暗記してきたことに象徴されるように、歴史をたんに知識としてしか学ばなかったからです。血のかよった歴史、生きた歴史、胸がわくわくするような歴史を学ばなかったからです。
源氏と平家の争乱にしても、戦国武将の争乱にしても、江戸幕府の終えんと明治維新の起こりにしても、チンギス・ハンやナポレオンの遠征にしても、これほど真実で、これほどおもしろいドラマは、虚構の文学作品のなかには、あまり見ることができません。これを逆からとらえれば、古くは 「平家物語」 新しくは 「人間の条件」 などの日本の作品にしても、「戦争と平和」 や 「ジャン・クリストフ」 などの世界の作品にしても、長編の名作小説といわれるもののほとんどが歴史のなかに取材し、歴史を浮き彫りにしながら物語を展開したものです。つまり、人間を大きな渦のなかに巻きこむ歴史のなかで人間がえがかれているからこそ、その迫真性が人の心をうつのです。迫真性などとむずかしいことをいわなくても、歴史に取材した大河テレビドラマの視聴率が高いこと、歴史に関心のうすい人たちでもドラマ化されれば深い興味を示すことをみれば、事実の重みをもった歴史物語が、もともと、いかにおもしろいものであるかがわかります。
ところで、現在、刊行されている歴史シリーズを見ると、「おもしろさ抜群の、読める日本史」 「自分の興味、関心に応じて読める楽しい歴史」 「抜群におもしろい歴史物語」 「家族みんなで楽しめる歴史」、というようなことがうちだされています。また、読みものとしておもしろくするために、歴史に生きた人物を中心にえがいたシリーズも少なくありませんが、それらも 「人物と事件が織りなすドラマ」 「歴史に生き歴史に死んだ人びとの、はげしく美しいドラマ」 などと、ドラマ性が強調されています。つまり 「読んで楽しい」 歴史シリーズであることに注意がはらわれているのです。
以上のほか、図版や写真を多く入れた誌面づくりによって 「読んで楽しい」 と同時に 「見て楽しい」 シリーズであることにも、工夫されています。したがって、多くの歴史シリーズは 「歴史を学ぶ人のために」 というよりは 「すべての人のために」 つくられているということになるのでしょう。それは、歴史をふりかえることは 「すべての人にとって、たいせつなもの」 であるからです。

● 教えられる人間の生きる価値
人間は歴史と切りはなして生きることはできないのですから、歴史を知ることによってこそ、「ひとりひとりの人間の生きる価値」 を、ほんとうに認識することができるのです。また、歴史の流れを見つめることによってこそ 「自分は自分ひとりで生きているのではない」 ということを、しっかり自覚することができるのです。
家庭での親子の対話のなかに、歴史を見つめ、歴史をふまえ、歴史を考えた言葉があったら、どんなに、すばらしいでしょう。歴史にかかわり、歴史に挑戦しながら大きく生きる自覚が、子どもの心にも、しぜんに、芽ばえていくにちがいありません。
歴史の重み、人間の生の重みを知るために、歴史シリーズのひとつくらいは、各家庭に必備されていてもよいのではないでしょうか。
歴史は人間に勇気を与え、たくましく生きることを教えてくれます。

(日本読書クラブ推薦図書の項は省略)

投稿日:2006年03月09日(木) 09:29

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)