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心ゆさぶる真実の世界

「日本読書クラブカタログ(本の価値と楽しみ)」の第6章「児童文学」の項を紹介してみよう。

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● 教科書にも多くの教材
「ごんぎつね」(新美南吉)、「おこりじぞう」(山□勇子)、「たかのすとり」(千葉省三)、「雪わたり」(宮沢賢治)、「月の輪ぐま」(椋鳩十)、「ベロ出しチョンマ」(斉藤隆介)、「もぐら原っぱのなかまたち」(古田足日)、「ヒロシマのうた」(今西祐行)……。
これらの文学作品は、いまの小学校の国語の教科書に収められている「文学教材」のごく1部です。教科書全体を見ると、これらの文学作品は、1学年(2分冊)平均3、4点ずつ(6年間で20〜30点)とりあげられており、指導の目標として、教材ごとに 「人物の気持や場面のようすについて考えましょう」 「読んで心に残ったことを、みんなで話しあいましょう」 「人によって感じかたが違うことを、たしかめましょう」 というようなことが、かかげられています。
つまり、文学教材をとおして豊かな言葉を学ばせると同時に、文学にしかない世界をとおして、ものごとを豊かに考える習慣を身につけさせようとするものです。これは、子どもたちの心の成長に、文学の価値がいかに大きいものであるかが、証明されているといってよいでしょう。
さて、各種の児童文学全集を見ると、つぎのようなことが、うたい文句にされています。
「未来にとびだす子どもたちに夢と愛を」「子どもたちに真実と愛を!」「現代を生きぬく勇気と感動を!」「感動をとおして豊かな心の成長を」「子どもの成長の糧に」「良い本は心の友だち」「豊かな人間形成のために」「1冊の名作との出会いが子どもの世界を変える」「成長期の血となり肉となる名作の世界」
これは、各社の宣伝用の言葉ですから多少の誇張はありましょう。しかし誇張はあっても、これらの言葉のなかには、児童文学全集の価値と、それを子どもに与えることの意義が、そっちょくに語られています。
文学者や評論家たちの言葉を借りると、文学とは「人間の思想や感情を、あるいは、作者が真実として美として感じたものを、言葉を用いて表現したもの」 ということになるでしょう。ここでいう真実とは、人間的な真実です。つまり、人間の真実と人間のほんとうの美しさを、力強く、しかも、美しい言葉でえがいたものであり、だからこそ、すぐれた文学は万人の心をゆさぶらずにはおかないのです。

● 世界の人びとに感銘を与えてきた名作
人間の心をもっとも成長させるのは、感動と感銘です。深く心を動かすのが感動、しっかり心にきざみこんで忘れないのが感銘であり、心をゆさぶられて心に残るからこそ、心の種、成長の糧になるのです。
ところが、この感動と感銘には、日常の実生活のなかでは、めったに出会うことはできません。まして、物質主義のいまの世のなかでは、なおさらでしょう。しかし、どのような世のなかでも、しかも、だれでも、いつでも、その感動と感銘を求めることのできるものが、ただ一つあります。つまり、それが文学です。とすれば、すぐれた文学全集は、感動と感銘の宝庫だといってもよいのではないでしょうか。子ども向き文学全集の多くは、内外の名作を集めた名作全集です。そして同じような内容の全集が、くり返しくり返し出版されていますが、これは、名作に永遠の価値があるからです。
「名作」とは、一般的にいえば 「すぐれた著作物」 「名高い作品」 ということになるのでしょうが、世界名作全集などに収められている名作は、たんに、すぐれたというのではなく、長いあいだ世界の人びとに読みつがれ、長いあいだ世界の人びとに深い感動と感銘をあたえてきたものばかりです。いいかえれば、世界の人びとが名作として折り紙をつけた芸術作品ばかりであり、だからこそ 「すべての子どもたちに、いちどは、ふれさせたい」 価値があるのです。

● 子どもにはゆっくり
ところで、とうぜんのことながら、どんなにりっぱな文学全集でも、飾りものに終わっては、なにもなりません。しかし、だからといって全巻を一気に読みとおすこともないでしょう。とくに子どもには、文学全集をゆっくり楽しませることがたいせつです。
したがって、子どもに文学全集を買い与えたのち、「まだ、これだけしか読んでないの」 「高いお金をだして買ってやったのよ、どんどん読まないとダメじゃないの」 などと言ってはいけません。これでは、子どもは、せっかくの全集に背を向けてしまいます。むやみに、子どもの尻をたたくよりも、ときには、親自身が全集の1冊を読んで、「これ、おもしろかったわ」 と語りかけてやったほうが、どれほど効きめがあるかしれません。
もしも、一つの全集を親子で楽しみながら読みとおすことができたら、どんなに、すばらしいでしょう。親と子が、同じ花園を、お互いの心にもちあうことができたのですから。子どもに、豊かな心と豊かな言葉をもたせたいなら、文学全集のひとつくらいは、子どもの机のそばに備えてやりたいものです。

(日本読書クラブ推薦図書の項は省略)

投稿日:2006年03月14日(火) 09:23

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)