児童英語・図書出版社 創業者のこだわりブログ Top >  日本読書クラブ >  先人に人間の生き方を学ぶ

先人に人間の生き方を学ぶ

「日本読書クラブカタログ(本の価値と楽しみ)」の第8章「伝記」の項を紹介してみよう。

☆ 〜〜〜〜〜〜〜〜★〜☆〜★〜〜〜〜〜〜〜〜☆

● 教科書にも多くの伝記
「田中正造」……田中正造の生き方を考えましょう。自分だったら、どのような生き方をしたいと思ったか、考えをまとめましょう。
「アンリ・ファーブル」……ファーブルが、どんなことを考えて、何をしたかを、読みとりましょう。
「ジョン万次郎」……万次郎という人物の行動や人がらを読みとり 「生きるすがた」 について自分の感想をもとう。
「山にささげた一生」……主人公の生き方を読みとり、生きることについて自分の考えをもとう。
以上は、小学校の国語の教科書に収められている伝記教材 (被伝者と教えのねらい) の一部です。つまり、ここでは、言葉を学ばせると同時に、子どもたちに人間の生き方を考えさせることが、大きなねらいとされています。
ところが、じっさいには、国語のなかの伝記教材は、1学年にわずか1、2編にすぎないうえに、その教授内容も多くの場合、つめこみ教育のあおりを受けて読解指導 (文字や言葉の意味) に終わり、被伝者の生き方を子どもたちに深く考えさせるようなことは、ほとんど行なわれていません。つまり、せっかくの伝記教材は生かされてはおらず、子どもたちに、学校をはなれたところで伝記にふれさせることのたいせつな理由の一つが、ここにあります。伝記書を読むことの意義をひと口でいえば、先人たちの生きざまに 「人間の生き方」 を学ぶということにあるでしょう。

● 進学戦争で進んでいる没個性化
いまの日本人の多くは、おとなも子どもも、自分の意志で主体的に生きること、自己のなかで、ふくらませた個性的な夢と希望にもえて生きることを忘れています。きびしい進学戦争のなかで、すでに幼児のときから、よい学校、よい会社へのレールの上を走らされている子どもは、特にそうでしょう。
いわば、いまの子どもたちは自分の人生を自分で選んで生きようとしないから、自分の生き方にも自分が 「生きている」 ことにも、責任を持とうとしません。何かにつまずけば、すぐ、「自分をこのようにした」 他人と社会のせいにします。また、人間はひとり一人が個性的に生きることこそすばらしいのだ、ということに気がついていないから、他人の生きかたを、すぐうらやみます。そして、人と比べて、わたしはダメだと思えば、かんたんに、自分の人生をなげだしてしまいます。そのうえ、歴史のなかで、大きく、なやみ多く生きることの価値を知らないから、マイホーム主義におぼれてしまうような、小さな生きかたに妥協して満足してしまいます。
こうしてみると、いまほど、伝記が読まれてほしい時代はないのかもしれません。伝記は、すべての人に、また、どんな人にも、生きる夢と希望と勇気と信念を与えてくれるのですから。たった1冊の伝記が、その人の生きかたに、ほとんど決定的な影響を与えた事例も過去に少なくありません。すぐれた伝記は真実性と迫真性に富み、どんな名作文学にも負けないほど、読者の心をつき動かす力をもっているのです。

● エジソン、野口英世は永遠の偉人
さて、子どもについて考えた場合、いまの子どもたちは、どのような人物に心ひかれているのでしょうか。これを、毎日新聞社の読書調査結果にみると、つぎのとおりです。
★エジソン★リンカーン★キュリー夫人★ナイチンゲール★ヘレンケラー★べ一ブルース★ベートーベン★野ロ英世★豊臣秀吉★織田信長★徳川家康★聖徳太子★石川啄木★宮沢賢治★小林一茶(ベスト15位)。
つまり、子どもたちに愛されている被伝者は、秀吉、信長、家康などがテレビの影響を少し受けていることをのぞけば、数10年来、変わりません。エジソン、リンカーン、キュリー夫人、ナイチンゲール、野口英世などは、子どもたちにとっての永遠の偉人といってもよいのかもしれません。
しかし、伝記書、とくに子ども向きの伝記には、やや、難点のあるものが少なくないことを、知っておかなければなりません。
その難点というのは、[被伝者が、あまりにもきれいに、えがかれすぎていること][人物に焦点をあてすぎて、社会・時代背景が軽くあつかわれ、なかには、歴史的な記述に誤りさえあること][事実性に乏しい話(ワシントンが、子どものときに庭の桜の木を切って、父に叱られたという話。ベートーベンが町を歩いていて、盲目の少女のひくピアノにひかれて「月光の曲」を作ったという話など) が、たんに物語をおもしろくするために、真実として、さらには誇張して記述されていること]などです。

● 子どもは自分の意志と足で歩かせよう
どのような偉人にも、人間としての欠点や、みにくい面があったはずです。また、いろいろな失敗もあったはずです。伝記は、それらが、つつみかくさず語られていることが大切ではないでしょうか。伝記には、その人の 「真の生きざま」 が重要だからです。また、欠点のある偉人のほうが、読者にとって、親しみやすいものにもなるからです。
伝記は、読者に、かならず 「生きる意味」 を考えさせます。また 「苦しみにうちかって生きる力」 を与えてくれます。エジソンらのような永遠の偉人に限ることはありません。郷土に生きた偉人でも、社会のなにかにつくして生きた偉人でもよいのです。もっともっと、伝記を読んでみようではありませんか。自分の意志と足で歩いている力をつちかうために、そして子どもに、つちかわせるために……。

(日本読書クラブ推薦図書の項は省略)

投稿日:2006年03月16日(木) 09:17

 <  前の記事 観察をこえ、より深い思考へ  |  トップページ  |  次の記事 世界に目を向け日本をみつめなおす  > 

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://mt.izumishobo.co.jp/mt-tb.cgi/637

         

2014年08月

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            

月別アーカイブ

 

Mobile

児童英語・図書出版社 社長のこだわりプログmobile ver. http://mt.izumishobo.co.jp/plugins/Mobile/mtm.cgi?b=6

プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)