今日8月30日は、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『複合汚染』『恍惚の人』など、歴史や古典芸能、社会問題まで広いテーマの話題作を多く著した作家の有吉佐和子(ありよし さわこ)が、1984年に亡くなった日です。
1931年、和歌山市に生まれた有吉佐和子は、父の転勤のために小学時代は旧オランダ領東インドで過ごし、1941年に帰国後、東京市立第四高女から疎開先の和歌山高女、光塩高女、府立第五高女を経て、1952年に東京女子大学英語学科を卒業、演劇評論家を志して、雑誌『演劇界』の嘱託となりました。
そのかたわら、同人誌『白痴群』や『新思潮』に小説を発表し、1956年に『地唄』が芥川賞候補となって、いちやく文壇デビューを果たしました。1959年に自らの家系をモデルとした長編『紀ノ川』がベストセラーとなって作家としての地位を確立すると、売れっ子作家として、新聞や週刊誌などに作品を発表し続け、多くがジャーナリズムの話題となり、舞台、映画、テレビドラマ化されています。
有吉の作品は大きく分けると、『地唄』『キリクビ』のような芸道小説、『紀ノ川』『日高川』『香華』『助左得門四代記』など旧家をめぐる大河小説、『恍惚の人』『非色』『三婆』など現代社会のゆがみをテーマにした問題作に大別できるようです。舞台化作品には、その演出を自ら手がけるほどでした。
とくに、1974年に朝日新聞で連載開始された『複合汚染』は、連載中から一大センセーショナルをまきおこし、翌年に上下巻が刊行されると大ベストセラーとなったばかりか、現在でも、環境問題を考える上で、話題を提供しています。今日の工業生産中心の科学技術が、自然、農業、生活、健康、精神を汚染し、滅亡の淵まで追いやっている現実を、文学者の眼でわかりやすく具体的に、その危機を叫びつづけたものでした。この本の「あとがき」を読むと、この本を書きはじめる10年も前から、DDT汚染を告発したアメリカ生物学者で作家のレイチェル・カーソンの『沈黙の春』など300冊以上も読み、連載開始してからも何十人もの専門家に取材して書き上げたこと、事態は深刻で、知りえた知識の1割程度しか書ききれなかったと記しています。この本がきっかけとなって、市民団体の告発も活発化し、行政でも環境問題に真剣に取り組むようになって、私自身も、電車で通るだけでも悪臭がただよっていた隅田川や荒川などが、急速にきれいになったことを実感しています。
1972年に刊行された『恍惚の人』も大きな話題になりました。痴呆症(認知症)や高齢者の介護問題をいち早く扱った作品で、翌年森繁久彌の主演で映画化されたほか、1990年には日本テレビ、1999年にはテレビ東京、2006年には三国連太郎主演のテレビドラマが放送されています。
「8月30日にあった主なできごと」
1871年 国木田独歩誕生…『武蔵野』『牛肉と馬鈴薯』 『源叔父』 などの著作をはじめ、詩人、ジャーナリスト、編集者として明治期に活躍した国木田独歩が生まれました。
1945年 マッカーサー来日…第2次世界大戦に敗れた日本は、9月から1952年4月まで6年9か月間占領され、連合国軍司令部(GHQ)による間接統治が行なわれました。その最高司令官に任命されたアメリカのマッカーサー元帥が、神奈川県の厚木飛行場におりたちました。