今日3月14日は、人道主義・理想主義をかかげる「白樺派」を代表する詩人の千家元麿(せんげ もとまろ)が、1948年に亡くなった日です。
1888年、東京・麹町に生まれた千家元麿の父は出雲大社の宮司で、後に東京府知事を経て西園寺内閣の司法大臣となった男爵千家尊福(たかとみ)でした。しかし、元麿の母は、正妻でない画家の小川梅崖でした。父親の移動に伴って各地の小学校を転々とし、東京府立第四中学を中退後、窪田空穂・佐藤紅緑について短歌や俳句を学び、「万朝報」や「電波新聞」などに投稿するようになります。
1912年に佐藤惣之助らと同人雑誌『テラコッタ』を創刊したことで、武者小路実篤ら白樺派の同人たちと交わるようになると、小説や戯曲も書くようになり、1916年ころからは詩作に専念するようになりました。1918年に第1詩集『自分は見た』を発表すると、庶民的な生活感情をうたいあげた平明な口語詩は多くのファンを呼び、全編に流れる人道主義の精神は、以後の詩集『虹』『夏草』などにも引きつがれていきました。
千家が生涯の師としてきた武者小路実篤は、次のように記しています。「千家の詩に僕が感心するのはその情熱だ。純情だ。愛だ。彼の詩はつくられたものではなく生れたものだ。彼のように古今東西の天才に心から感激したものは少い。そして彼は日常生活にそれ等の人と心の交りを尽して生きていた。彼は又自然をいつも讃嘆していた。自然美を彼は倦まず歌っている。又哀れな者、貧しき者、よく働く者の味方だった。彼の同情心は禽獣虫類に迄及んでいた」……と。
自然うたっても、次の詩のように、廃園といった人間の手を放れた空地の中に、自然の精力と美を見出しているところに、千家独自の世界があるようです。
「廃園の春」 草木の生い繁った/手の入らない/邸跡か何かの空地があると/自分はすぐ心をひかれる/家の跡は僅かに残っていて/昔は繁っていたであらうと思う庭は/まるで藪のように草の生えるままだ。/そこには精力が溢れている/人間に関せず、自然はそこで賑やかに/春の宴会を開いている/樹々の花は散って/枝々はもう青く/空気までも青く染まっている/縦横にのびた草は/老いない土を祝しているかのよう/しんかんとして人気が無く/春はそこでどこよりも肆(ほしいまま)に味わえる [詩集『夜の河』より]
なお、オンラインブック「青空文庫」では、98編の詩をおさめた第1詩集『自分は見た』を読むことができます。
「3月14日にあった主なできごと」
1497年 毛利元就誕生…戦国時代に全中国地方と四国の一部を支配し、毛利家の最盛期をつくった毛利元就が生れました。
1868年 五箇条の御誓文…天皇集権による明治新政府の基本方針となる「五箇条の御誓文」を公布しました。
1879年 アインシュタイン誕生…「一般相対性理論」を完成させてノーベル物理学賞を受賞し、平和活動に尽力した20世紀最大の物理学者といわれるアインシュタインが生れました。
1883年 マルクス死去…「科学的社会主義」を提唱し、労働運動の理論的指導者として世界に大きな影響力を与えたドイツ出身の経済学者マルクスが亡くなりました。