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「戦後の代表作家」 井上靖

今日1月29日は、『あすなろ物語』『しろばんば』『氷壁』『敦煌(とんこう)』など、たくさんの小説を著わし、文化勲章を受章した作家・井上靖(いのうえ やすし)が、1991年に亡くなった日です。

1907年、北海道旭川に軍医の子として生まれた井上靖は、6歳の時父母のもとをはなれ、伊豆湯ヶ島の祖母に育てられました。祖母が亡くなると、おばの知り合いのつてで三島へ行き、沼津の中学校に通いました。文学にめざめたのは旧制中学4年のころで、のちに代表作のひとつとなる自伝的小説『あすなろ物語』や『しろばんば』などに詳しく描かれています。

1927年、石川県金沢市の第四高校(現・金沢大)、福岡の九州大学を中退したのち、1932年に京都大学に入学したころから作家活動を本格化させ、同人雑誌を作ったり、戯曲を上演させるなど能力を発揮しはじめました。ほとんど登校することなく1936年に京大を卒業すると、『サンデー毎日』の懸賞小説に応募した『流転』が入選したことがきっかけになって、毎日新聞大阪本社へ入社し、「学芸部」記者として働きはじめました。日中戦争のため召集を受け出征するものの、病気のために除隊され、「学芸部」に復帰しました。

井上が作家として本格的な活動を開始するのは敗戦後のことで、1950年に『闘牛』で第22回芥川賞を受賞すると、1951年に毎日新聞社を退社。以後『白い牙』『淀どの日記』などを次つぎに発表し、1956年には朝日新聞に連載した『氷壁』がベストセラーとなって、いちやく流行作家の仲間入りをします。そして、日本史を題材にした『天平の甍(いらか)』『風林火山』『額田女王』、中国古代の西域を舞台にした『敦煌』『楼蘭』『蒼き狼』など、多彩で、詩情豊かな大作、話題作を連発させました。いっぽう『アレキサンダーの道』など、中国をはじめ、アメリカやソ連、中央アジア、ヨーロッパ各地を、取材をかねて訪れた紀行文もたくさん残しています。生涯に井上が著わした作品は、長編だけで44作、短編をあわせるとゆうに100作をこえ、そのほとんどは、新潮社などの全集におさめられています。

映画やテレビドラマになった作品は数限りなくあり、ごく最近でも映画『茶々 天涯の貴妃』(2007年)『狼災記』(「ウォーリアー&ウルフ」2008年) 『わが母の記』(2012年)、テレビドラマ『風林火山』(2007年のNHK大河ドラマ) 『初秋』(原作『凍れる樹』2011年)など今も人気をたもち、1976年には文化勲章・文化功労章を受章したほか、菊池寛賞、NHK放送文化賞、朝日賞など、枚挙しつくせないほどの賞を受賞しています。


「1月29日にあった主なできごと」

1866年 ロマン・ロラン誕生…『ジャン・クリストフ』『ピエールとリュース』『ベートーベン研究』などを著したフランスの理想主義的作家、思想家のロマン・ロランが生まれました。

1872年 初の人口調査…近代的人口調査を実施してきた明治新政府は、この日総人口3310万9826人と発表。この年から江戸時代の人別帳にかわる戸籍が作成されました。

1957年 南極に昭和基地…南極観測隊はオングル島に到達し「昭和基地」を開設しました。34名の隊員のうち、西堀隊長以下11名が初の越冬観測のためここに残りました。

投稿日:2013年01月29日(火) 05:11

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)