今日12月27日は、児童向動物文学の傑作をたくさん著わした作家の椋鳩十(むく はとじゅう)が、1987年に亡くなった日です。
1905年、長野県南部・喬木村の牧場主の家に生れた椋鳩十(本名・久保田彦穂)は、少年の頃から父親に連れられて近くの山へ狩りにでかけたり、猟師たちからさまざまな話を聞くうち、大自然の中を生きる動物たちへの関心が高まりました。旧飯田中学をへて法政大学に入学したころから、詩や小説を書きはじめ、卒業後に鹿児島・種子島にある小学校の代用教員をへて、加治木高等女学校の国語教師になりました。
教師のかたわら、少年時代に親しんだ山歩きの体験をテーマにした小説を書き続け、 1933年に椋鳩十のペンネームで最初の小説『山窩調(さんかちょう)』を自費出版しました。「山窩」とは、戸籍を持たず、定住することなく、狩猟や山の恵みの採取を生業とする人たちだったため、発禁処分とされてしまいました。しかし、ひそかに『鷲の唄』『山窩譚』など一連の狩猟生活を営むひとたちを描いた作品を書き続けました。やがて、子どもを対象とした動物文学作品にうつり、『山の太郎熊』『金色の足跡』『大造じいさんと雁』『月の輪ぐま』などを次々と発表し、東京の出版社からも注目されるようになりました。
太平洋戦争後の1947年、鹿児島県立図書館の館長になった椋は、県立図書館の本を、鹿児島市内の町村立図書館他に貸し出すなど、独自の図書館ネットワークを築きあげました。さらに、創作活動をつづけながら、1960年には親子読書を提唱し、『母と子の20分間読書』運動を全国的に呼びかけて推進したことは特に有名です。1967年からは鹿児島女子短期大学教授を務めました。
およそ50年にもわたり、仕事のかたわら書き続けた作品は、きびしい自然の中で生きていく動物たちをあたたかい眼でみつめたものが大半です。1953年に文部大臣奨励賞を受賞した『片耳の大シカ』、1962年に小川未明文学賞を受賞した『大空にいきる』、1964年にサンケイ出版文化賞を受賞した『孤島の野犬』など、その作品はポプラ社や理論社から刊行された全集におさめられ、1983年にはそれらの功績が讃えられて、芸術選奨文部大臣賞を受賞しています。歿後の1991年からは「椋鳩十児童文学賞」が開催され、児童文学界の新人を育てるユニークな賞となっています。また、著書群はいまだに版を重ねているばかりか、『大造じいさんと雁』は、小学教科書に取り上げられ続けています。
なお、私は椋氏の亡くなる2年ほど前に、神奈川のご自宅をたずねたことがあります。いずみ書房で刊行したばかりの『せかい伝記図書館』(全36巻・いずみ書房のホームページに公開中) を送らせてもらったところ、ほとんど全巻に目を通してくれ、その感想を記したものを渡したいと、自ら電話をくださったからでした。にこやかに応対してくれた椋氏は、「とてもよく出来たシリーズですね」と、次のような直筆の推薦文を手渡してくれました。
「いずみ書房の『せかい伝記図書館』は、ソクラテス、孔子、シャカといった世界的な聖人がとりあげられているかと思うと、足利尊氏、葛飾北斎といったきわめて個性的な人物も登場する。百人を越す各方面の人物が幅広いジャンルで選ばれている。どの項も、二十分もすれば読みきることが出来るほど、簡潔化されて記述されているが、それぞれの時代と人物との関係、その思想、生きざまが、要領よく浮きぼりにされている。しかも、あくまで史実に、忠実であろうとする姿勢をくずさない。この『せかい伝記図書館』は、良心的な伝記集として、小学生・中学生の諸君にすすめたい」
私は、苦労の甲斐があったと押しいただいて帰りましたが、このことを業界にくわしい人たちに話したところ、信じられないほど珍しいことだそうで、よほど気にいってくれたのだろうとのこと。以来シリーズのパンフレット他に、今も使わせてもらっています。
「12月27日にあった主なできごと」
1571年 ケプラー誕生…惑星の軌道と運動に関する「ケプラーの法則」を発見した ケプラー が生まれました。
1780年 頼山陽誕生…源平時代から徳川にいたる武家700年の歴史を綴った 「日本外史」 を著した学者・歴史家で、詩人・書家としても活躍した 頼山陽 が生まれました。
1822年 パスツール誕生…フランスの細菌学者・化学者で、狂犬病ワクチンを初めて人体に接種したことなどの業績により「近代細菌学の開祖」といわれる パスツール が生まれました。
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