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近代劇の父・イプセン

今日5月23日は、従来の楽しむための演劇にたいし、劇を通して現実のさまざまな問題を考えてもらおうと 「人形の家」 などたくさんの劇を発表した劇作家イプセンが、1906年に亡くなった日です。

19世紀の終わりころ、世界じゅうに新しい演劇運動が起こりました。それまでの劇が歴史や伝説を中心にしたものであったのをやめて、いま生きている人間の苦しみやよろこびを物語にした劇を盛んにしていこう、という運動でした。その運動の大きなきっかけをつくり、近代劇の父とよばれているのが、ヘンリク・イプセンです。

イプセンは、1828年に、ノルウェー南部のシーエンという小さな町で生まれました。父は商人でした。ところが、イプセンが7歳のときに父が商売に失敗したため、家族は、ちりぢりになってしまいました。

イプセンは、学校教育もあまりうけないまま大きくなり、15歳のときに、薬局に住みこみではたらきにだされました。そして自分で勉強をしながら医科大学をめざしましたが、試験に落第してしまいました。

「人間は、どうして自由に生きられないのだろうか」

しだいに、イプセンは人間の自由をしばりつける社会に不満をもつようになりました。そして、20歳をすぎたころから権力や社会と戦う人間を主人公にした劇を書き始め、やがて、『戦士の塚』 が上演されると、ノルウェー国民劇場の舞台監督に招かれ、演劇人としても活やくしました。

1864年、36歳になったイプセンは、家族をつれて、ドイツへ渡りました。それからの27年間は、ほとんど外国で生活しながら劇の台本を書きました。劇で人間の自由を訴えようとする自分の考えが、ノルウェーの人びとには理解してもらえなかったため、祖国をとびだしたのです。

『ペール・ギュント』 『社会の柱』 『人形の家』 などの劇を発表していくうちに、イプセンは、世界に知られる大文学者になりました。とくに、「妻は夫の人形ではありません。妻も男と同じ人間です」 と、夫も子どもも捨てて家をでて行く目ざめた女を描いた 『人形の家』 は、世界の人びとをおどろかせました。そのころの古い社会では、妻が、自由を求めて家を捨てるというようなことは、とても考えられないことだったからです。イプセンを非難する人も少なくありませんでした。

しかしイプセンは、その後も 『幽霊』 『民衆の敵』 『野鴨』 などの社会問題をとりあげた劇作をつづけ、1906年78歳で、信念をつらぬきとおした生涯をとじました。『人形の家』 の主人公ノラは、いまもなお婦人解放の心のささえとなって生きつづけています。

なおこの文は、いずみ書房「せかい伝記図書館」(オンラインブックで「伝記」を公開中) 11巻「ナイチンゲール・シュリーマン・パスツール」 の後半に収録されている7名の 「小伝」 から引用しました。近日中に、300余名の 「小伝」 を公開する予定です。ご期待ください。

投稿日:2008年05月23日(金) 09:20

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プロフィール

酒井 義夫(さかい よしお)
酒井 義夫(さかい よしお)

略歴
1942年 東京・足立区生まれ
1961年 東京都立白鴎高校卒
1966年 上智大学文学部新聞学科卒
1966年 社会思想社入社
1973年 独立、編集プロダクション設立
1974年 いずみ書房創業、取締役編集長
1988年 いずみ書房代表取締役社長
2013年 いずみ書房取締役会長
現在に至る

昭和41年、大学を卒業してから50年近くの年月が経った。卒業後すぐに 「社会思想社」という出版社へ入り、昭和48年に独立、翌49年に「いずみ書房」を興して40年目に入ったから、出版界に足を踏み入れて早くも半世紀になったことになる。何を好んで、こんなにも長くこの業界にい続けるのかと考えてみると、それだけ出版界が自分にとって魅力のある業界であることと、なにか魔力が出版界に存在するような気がしてならない。
それから、自分でいうのもなんだが、何もないところから独立、スタートして、生き馬の目をぬくといわれるほどの厳しい世界にあって、40年以上も生きつづけることができたこと、ここが一番スゴイことだと思う。
とにかくその30余年間には、山あり谷あり、やめようかと思ったことも2度や3度ではない。なんとかくぐりぬけてきただけでなく、ユニークな出版社群の一角を担っていると自負している。
このあたりのことを、折にふれて書きつづるのも意味のあることかもしれない。ブログというのは、少しずつ、気が向いた時に、好きなだけ書けばいいので、これは自分に合っているかなとも思う。できるかぎり、続けたいと考えている。「継続は力なり」という格言があるが、これはホントだと思う。すこしばかりヘタでも、続けていると注目されることもあるし、その蓄積は迫力さえ生み出す。(2013.8記)